木炭自動車

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木炭自動車、それは戦前戦後を通じて石油不足に悩んだ我が国が生み出した代燃機関を搭載した自動車である。 当時既に完成していた天然瓦斯自動車や電気自動車、ヂーゼル自動車よりも普及していた実用車両である。 此処ではそんな木炭自動車及びその要たる木炭瓦斯発生装置について、 国民自動車読本(中根良助著)を元に紹介していこうと思う。

1.木炭自動車(薪炭自動車)とは  代用燃料車の一つで、木炭を燃料とする。  ガソリン車でガソリン瓦斯を圧縮、爆発させるのに対し、  木炭自動車では木炭瓦斯発生炉で木炭を燃焼させて木炭瓦斯(一酸化炭素)を発生させて用いる。  機関そのものには根本的な相違はない。  燃料に薪を利用する薪自動車と一纏めに薪炭自動車とも称する。 木炭自動車(自動貨車) 2.ガソリン自動車との相違点  ガソリン自動車ではキャブレーターでガソリンが気化し(ガソリン瓦斯)、  適当量の空気とともにシリンダーに導かれ、圧縮され、  電機着火によって爆発させてシリンダーを動かす。  木炭自動車では木炭瓦斯発生炉で木炭を燃焼させて瓦斯を発生させ、  瓦斯中の夾雑物(水分、木炭紛、灰等)を取り除き、  清浄な瓦斯と適当量の空気をシリンダーに導かれ、  電気着火によって爆発させてシリンダーを動かす。  このように両者の相違点はガソリン自動車では「タンク」と  「キャブレーター」が燃料を供給しているのに対して、  木炭自動車ではこの二つの装置の代わりに  「木炭瓦斯発生装置」が用いられていることである。  即ち、燃料装置のみが異なり、其の他の機関は全て同じである。 自動貨車に取り付けられた木炭瓦斯発生装置 3.木炭自動車の欠点  ガソリン自動車に比して出力が劣り、殊に登坂能力はガソリン車に劣る。  (速度は自動貨車(定量積載)で30乃至45キロ、登坂能力は6分の1傾斜を1分半)  木炭の投入、着火、木炭瓦斯発生炉の清掃、手入れ等に手間がかかる。  木炭への着火、瓦斯発生までに若干時間がかかる。  (最良な状態で5分以内、良好な状態で10分以内にエンジン始動) 薪炭炉への燃料補給 4.木炭瓦斯発生装置の各部名称と働き  木炭瓦斯発生装置は大きく分けると以下に示す五つの部分になる。  中でも瓦斯発生炉が最も重要な部分であり、  其の他四つの部分は之に従属する部分である。  イ 瓦斯発生炉     鉄板又は鋳物で造られ、円筒型縦長の上向通風式と下向通風式、     角型横長の横流式がある。(詳細は後述)     いづれの形式も上下二段に分かれ、上段に木炭を貯蔵し、     下段で之を燃焼して瓦斯を発生させる。     燃焼室は一般に二重壁構造で、内壁は耐火煉瓦で造られ、     下部に火格子を設けている。  ロ 瓦斯冷却機     瓦斯発生炉で発生した瓦斯を冷却し、容積を縮小することで、     瓦斯の濃度を高めて熱量を高める装置。     水冷式と空冷式があるが、木炭自動車には軽量な空冷式が多く用いられている。  ハ 瓦斯清浄機(瓦斯濾過機)     瓦斯中に浮遊する水分、灰、木炭紛、等を濾過し、瓦斯を清浄にする装置。  ニ 瓦斯貯溜槽     濾過された清浄な瓦斯を蓄えておく装置。     この装置によって、始動時には貯留槽の瓦斯を用いて、     発生炉は之を補充することになる。  ホ 空気調節器(瓦斯空気混合調整機)     瓦斯量・空気量の調節、ガソリン切換を行う装置。     空気と瓦斯の混合割合は、瓦斯の性質によって変化すべきものである。     空気取り入れ口から入った空気と混合され、切換弁からシリンダーへ送られる。     木炭自動車はガソリン自動車に木炭瓦斯発生装置を取り付けたものであり、     車庫内の移動や、瓦斯発生炉の故障の場合にはガソリン運転が可能なように、     切換機能がついている。 木炭瓦斯発生装置 5.木炭瓦斯発生炉の種類  木炭瓦斯発生炉の種類としては、まずガス発生時の方式として、  瓦斯を発生する際に水蒸気を供給するものを湿式、  水蒸気を供給しないものを乾式の二種類がある。  又、通風の方向によって、瓦斯発生炉下部から燃焼室に空気を送り、  発生した瓦斯を上部又は中央部から冷却機に送る上向通風式、  瓦斯発生炉上部又は中央部から燃焼室に空気を送り、  発生した瓦斯を下部から冷却機に送る下向通風式、  瓦斯発生炉の側面(下部横側)から燃焼室に空気を送り、  発生した瓦斯を反対側の側面(下部横側)から冷却機に送る横流通風式の三種類がある。  主として湿式は上向通風式又は横流式、乾式は下向通風式であるが、  燃研式のように湿式で下向通風式のものや、  帝国式、大阪式のように乾式で上向通風式のものもある。 6.各方式の特徴  イ 湿式(上向通風式)     瓦斯発生炉の中で過熱分解して水素を発生するため、     瓦斯の発生量が多く馬力が高い。     水の供給が難しく、熟練を要す他、水蒸気が冷却機や清浄機で水滴となり、     濾過材料に付着して瓦斯の流れを妨げることがあるため、取り扱いがやや複雑である。  ロ 乾式(下向通風式)     発熱量は湿式に及ばないが、湿式のような熟練を要さず、     瓦斯清浄機に水滴がたまることは少なく、取扱・手入が容易で、故障が少ない。     燃料補給時に瓦斯発生炉の木炭供給口を開いても、     機関の連続運転に支障はなく、走りながら木炭の補給が可能である。     (他の二式では困難であり、事故の可能性もある。)  ハ 湿式(横流通風式)     上向き通風式と同様の特徴を持つが、特に天下後機関の始動までが一番早い。 瓦斯発生炉の各方式 7.薪炭自動車性能規格(商工省規格)  イ 取り扱いや手入れが簡易であること     手入れは1日8時間運転して、1日1回以内     但し、冷却装置は1日2回以内  ロ 保存のよいこと     発生炉の寿命は、毎日使用して2年以上     耐火煉瓦と火床は1年以上  ハ 運転が容易であること     操作がガソリン車とほぼ同等であること  ニ 発生路の着火が容易であること     電気送風機等を利用し、速やかに着火できること  ホ エンジンの始動及び自動車のスタートが容易であること     始動は10分以内     休止10分後もすぐに始動     休止30分乃至1時間後は5分以内に始動  ニ 速やかなガスの冷却     気温20度で、エンジン内部に吸収されるガス温度は40度以下  ホ 1回の燃料補充で長距離走行可能なこと     平地走行、楢木炭、楢薪使用を基準とし以下の通り。      木炭瓦斯発生路 100キロ以上      薪瓦斯発生路  80キロ以上  ヘ 速力     自動貨車  35〜45キロ     乗合自動車 35〜45キロ     乗用車   50〜70キロ  ト 登坂能力     定量の貨物、人員を載せて最低歯車速度(ローギア)で6分の1傾斜を容易に登り得ること     同登坂路200メートルを1分半以内で登り得ること  チ 安全性     発生炉の構造・装置は進行中の振動で破損しないこと     発生炉より生ずる熱及び煙が運転手及び乗客に不快感を生ぜしむる等悪影響を及ぼさないこと  リ 外観     勤めて醜からざること 付録 北海道中央バスで復元された薪炭自動車(まき太郎) トヨタ製の旧型ボンネットバスをベースに、薪炭バス現役時代を再現している。 製造は手作業で約5ヶ月、もちろん公道も走れる。 木炭瓦斯発生炉は上向通風式、薪消費率は1.3km/kg、速度60km/h 本ページで紹介している木炭瓦斯発生装置とは若干構造が違い、瓦斯清浄機が瓦斯冷却機の前段についている外、 (現地でのパネル説明どおりであれば)瓦斯貯溜槽は装備されていない。      

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